前穂北尾根事故

前穂北尾根での事故に遭遇して
 前穂北尾根のクライミング中、先行4人パーティが5月3日6時頃起こした事故に遭遇しました。我々は5峰下降中に4峰に留まる2名を確認しコルに着きました。当該事故はニュースなどで報道されています。前穂北尾根4峰においてフリーで登攀中コルからの出だし20~30mのところでトップが浮石を落とします。これが後続の2名に当たり、直撃を受けた1名が奥又側の谷へ滑落、他の1名は背中ないしわき腹に当たった、とのことでした。現場には我々を含め4~5パーティが居合わせました。当該パーティからと思いますが、携帯電話でヘリによる救助を依頼済みでした。滑落した事故者のところには他パーティから3名が下降し電話により心配停止を連絡してきました。ある程度状況を確認したところけが人は動けそうだということなので、2名を下降させるため停滞位置まで登りました。事故者はわき腹から背中の痛みを訴えましたが、手足に怪我はなく歩ける状態でした。ザイルをロワーダウンに設定し付き添ってコルへ下降しました。回収は当該パーティのトップが行いました。警察から登山中止の指示があった旨を他パーティから知らされ、奥又白経由での撤退を決めました。滑落した谷を下ると、途中上がってきた方から名前を呼ばれ驚きましたが、ガイドのTKDさんでした。彼は心肺停止を確認し蘇生を試みたがうまくいかなかった、と言っていました。彼と遭難者のところのパートナーにコルからの伝言を伝え下降を再開しました。その頃ヘリが救助に到着しました。

 よく知られていますが、4峰は岩が不安定であり、特に涸沢側は落石が多い。また、融雪期の岩は夏期より不安定です。涸沢側を通過していたパーティも落石を起こしていました。通常4峰は左の奥又側から雪面を登ります。今回の事故の落石は涸沢側に入るより前の正しいルート上で起こりました。34のコルをあがり、4峰を避ける判断をしてもよいと思います。
 現場に後れて着いた我々は状況がしばらく把握できませんでしたが、けが人を岩場の途中においておくのも問題なのであがって状況を確認しロワーダウンさせました。大きな事故なので動揺は大きかったと思います。現場の2名の確保を完成し錯綜したザイルを整理しけが人を降ろしましたが、当事者だけでは下降できない精神状態だったと思います。第三者が落ち着いて指示を出さないと動けない、ということです。
周辺パーティの援助は重要です。ベルグ隊の副隊長ということになっているのですが、後で着いたために動いていいものかどうかしばらく考えてしまったのも事実です。最初に記した状況も後でわかったことで、ずっと他パーティが引き起こした落石があたった思っていました。そのため当該パーティの残った一人に回収などさせず我々が行ったほうがよかったとも今からは思えます。
 ヘリは無風状態の谷間からリフトしました。シートタンカによる雪面50m程度の下降で谷から出せる状況でした。場合によっては、その必要性の判断があります。狭い谷なら下降させなければヘリで引き上げることはできないと思います。また、へりが2回ほど何か言ったのですが、まるっきり聞き取れませんでした。(トコロ)