南アルプス、尾白川本谷

「名水百選」という肩書きがあり、甲斐駒の北東面に源頭部を持つ尾白川。7月の3連休は、トコロ会長と二人で、この尾白川の本谷へ沢登りに行ってきました。

前日夜に静岡を出発し、尾白川林道のゲート前にツェルトを張って、この日は前泊。そして翌朝・・・


尾白川林道から見る甲斐駒もご覧のとおり。バッチグーの沢日和となりました。

錦滝を過ぎ、更に林道の奥へと歩いていくと、3つの荒廃した隧道が現れる。これを越えると林道も終点となり、残置ロープがある踏み跡を辿って、尾白川の沢床へと下ります。

林道ゲートを出発してから、ここまで1時間半。登攀準備を済ませ、
いよいよ遡行開始。
 モリッシーさんの不名誉のために書けば、この日彼は最初の滝に差し掛かるところでいきなり滑って落ちてドボンときたのだった。この場所は、私も滑ったのであったがなんとかごまかして落ちずに済んだ場所であった。最初に落ちたのは、下の写真の場所ではないのでした。

ナメ滝を幾つか過ぎると、先ずは「女夫滝」と呼ばれる10m滝が現れた。
右岸側のスラブに取り付くも、これがフェルト靴だと全くグリップせず、
ズルズルしまくり・・・。
しかし上部のスラブにはお助けロープもぶら下がっていて、何とか行けそうと思って取り付いてみるが、そのロープに手が届くまで、あと30cm・・・
というところで足がズルズル滑り始め、もうこうなると万事休す・・・勢いよくスラブ上を滑っていき、5~6m下の滝つぼへ!ドッボーーーン!!!!
怖え~初っ端からこれかよ~💦

幸いにして怪我はしなかったが、いきなり尾白川の洗礼を受けた私。
「もう怖いもの無しだな」なんて、トコロ会長からも言われてしまう始末・・・。
 実をいうと、モリッシーさんの前にいた私も一旦ずるずる滑って、ここで彼と前後が入れ替わったのでした。そうしたら、今度は上の方からモリッシーさんが滝つぼめがけて滑っていくのでした。見た目には滑り台でも楽しんでいるのか、とも思えたがやっぱり落ちている。いったん水の中に消えた彼は、このまま浮かんでこないかと思われたが緑の水面から顔を出した。とはいえ、同じところまで行ってみると彼が「お助シュリンゲがついていますよ」といったものは、シュリンゲなどと呼べるものではなくて「紐」程度のものだった。「これかよ」と思っていたら、下の方から「まき道ありますよ~」の声がした。しっかりした踏み跡がある巻きがありました。

お次はワイヤーが掛かったハシゴ滝。ここはワイヤーの恩恵に授かりながら、滝の左を突破。

ハシゴ滝のすぐ上には、深くグリーンの釜をもつ5m滝・・・しかし、
こんな感じのスラブが、とっても嫌らしい。
すっかり自分のフェルト靴が信じられず、弱気になった私は左岸巻き。
 前回、黄蓮谷を登った時はここを突破したのですが、今回は朝からやけに滑って弱気になっていて悩んだ末結局まくことにしました。

ここからは「遠見滝」と呼ばれる連瀑帯に突入。
「巻けるトコロは何処かな~」とルートを探すトコロ会長。


右岸を高巻いていくと、綺麗な釜を持った大滝が見えました。巻き道には残置ロープが随所にあったが、ルーファイが必要なところでもあった。

更に左岸へ巻き、沢床に戻ると、ロングスラブの「噴水滝」の前に出た。
滝の基部が噴水のように噴き上がるとのことだが、この日はぜんぜん噴水ではなかった。滝の左側であれば、ここはフェルトでも大丈夫。
 本谷のスラブってこういう感じでした。傾斜はないのですが、足が信用できなくって怖い。でも、谷というだけあってスケールを感じます。

ナメ滝を幾つか越えた後は、すり鉢のような釜を持った小滝が。

このすり鉢のトラバースが、また嫌らしいのなんの・・・

フェルト靴のトコロ会長も、遂にここで尾白川の洗礼を受けました。しかし、落ちたらなかなか這い上がれないんですよね~ココ。
 あの、滑って落ちていく感じって独特ですよね、ツ――――っという感じであまり早くはないけど抵抗できなくってドボンと落ちます。やいやい、と思ってやり直して突破していきます。しかも突破というほど力んだものではないのですが、また落ちそうな感じになるのが参っちゃう。

お次の階段状の滝は、左から入って滝をトラバースして右側の落ち口へ。


 
トコロ会長は、難しそうな滝の右側を突破。
モリッシーさん、お気遣いありがとうございます。どこもそんなに、難しさは変りませんよ。


最後の落ち口の乗越も、ちょっと嫌らしい。

遡行開始から約2時間半で「黄連谷出合」へ。

右が本谷、左が黄連谷、水量は1:1なのですぐわかる。朝も早かったので、ここでしばしの昼休憩。

それにしても、やっぱり沢登りは晴天に限りますな~!

沢は澄み切り、エメラルドグリーン。

でもって、ここ一帯はナメナメの連続で癒されまくり。

前方左上には、とんがり坊主の「坊主岩」が見えてきた。正面奥の山は
「烏帽子岳」なのかな?

しかしまあ一面・・・いや全面、すごいスラブ岩ですな~坊主頭・・・
じゃなかった坊主岩。


これも綺麗なナメ滝。このくらいの滝をフリーで登るのが、丁度良いかも。
相変わらず、フェルトはよく滑ってドキドキですが・・・💦
 そうなんですよ、フェルトが結構滑ってこんなに滑るかなぁ・・・と始終思っていました。

このあたりからナメナメの癒し系から、急にガラリと雰囲気が変わり・・・


いよいよ本日のクライマックス、巨石帯に突入!しかし、これって越えられるのかしら~?

やっぱり越えられないので、ここは左岸を高巻き・・・しかし左岸もだいぶ傾斜が立っていて、おまけにガレガレ&ザレザレで悪い。

右岸側は、威圧感ある巨大スラブ岩。当然ながらこちらには巻けない。

何とか左岸を高巻いて沢床に戻ると、目の前は両岸が迫るV字谷。
そして巨大なチョックストーン!!もうここから先は、巻ける道がアリマセン。

巨石の隙間や弱点を見つけては、一つ一つ慎重にクリアしていきます。
ドキドキしながらも、このルーファイがなんだか楽しい。

そして、いよいよ逃げ道のない、核心の「巨大チョックストーン滝」が目の前に・・・。目の前の小さな滝ですがフリーでは危険!・・・なので、ようやくザイルの出番です。
 遠目には右から越せそうなのですが、ぼろぼろの風化花崗岩で崩れそうな感じがしました。また抜けるところが浮石があってちょっとこれは、ということで定番の左から超えました。

ここには事前の情報通り、滝口に沿って走るリス(岩の割れ目)に、ハーケンと残置のお助けシュリンゲがあった。シュリンゲの強度を確認しつつ、トコロ会長リードでA1で突破しました。
 フットを安定させるために黄色のシュリンゲを追加。濡れるのが嫌で、合羽を着ました。モリッシーさんは、あっさりと越えてきました。

フォローの私も無事滝の落ち口へ。ココを突破するために一応ハーケンは持ってきていたが、何とか使わず済んだ・・・ホッ。

更にこの巨大チョックストーンの突破は、右壁との隙間のトンネルを登っていく。ここも右壁が脆くザレザレで、最後の出口が特に緊張しました。

そして初日のゴールは、この巨大CS岩を越えたところにある岩小屋。予定よりも1時間早く到着できました。

岩小屋というのは小屋ではなく、巨石が寄り添って櫓状になったところ。一張分のスペースがあります。

稜線はガスっていたが、雨も降りそうに無さそうなので、持ってきたツェルトも張らず、ごろ寝しました。寝床には何故か平たい石のテーブルもあったりして、とても快適な岩小屋の一夜であった。

2日目の朝・・・

雲海から射すご来光。やや雲は多いが、まずまずの天気!
2日目は、更に沢を詰めて稜線に出る計画だ。ゆっくりと支度を済ませ、
6時半頃出発。

で、スタートは、さっそく目の前の巨石越えから。
登れそうなところを見つけては、突破していきました。

巨石帯を越えると、渓相も穏やかになり、沢もだいぶ細くなってきた。
この場所もテンバに適したところです。
 この日、ルーファイが結構難しくて何回か行き詰ることがありました。ここはフリーでは嫌だなぁ、と思って私が他を探していいところがないなぁ…と思っていたら、モリッシーさんが勇敢に越えていく場面があり、おおーとちょっと感心し、たくさんラッキーということでありました。それから、他にないなぁけどこの被りは突破できないなぁ、ということで初めてでしたが肩車で突破したりしました。

そして雪渓・・・その上にある滝が、核心の30m滝だ!

雪渓の下を潜って通過できそうなので、速やかに通過。
頭上の30m滝の基部へとフリーで登っていく。ここも以外に悪かったりします。
30m滝の直登は厳しいので、ザイル出して滝の右側にある20m程のルンゼを登ることに。出だしに2つの残置ハーケン+お助けシュリンゲがぶら下がっているのを確認。ここは私がリードしました。
お助けシュリンゲはA1、切れて落ちたらケガじゃ済まないので、カムを右壁にセットし、やっと人心地。
右壁は脆くボロボロ、足元は花崗岩の砂が溜まって滑りやすい状態でしたが、カムを更に2つセット、30mザイルを目いっぱい使って、無事滝の落ち口まで登りました。
 ここを見て、悪そうだけど傾斜はそうないしシュリンゲもあるしなんとかなるらぁ、などと思ってモリッシーにリードを頼んだら少し登っただけですごく悪い!というのでこれは困ったと思いました。モリッシーさんが情けないハーケンにランニングを取り、カムをきめ、木の葉や砂利を流してじわりじわりと上がっていきます。ここがやっぱり、難所です。二つザックを上げようとしたのですが、ここは確実に一つずつにしました。登ってみたら、確かに悪かった!セカンドでよかったー、などと思うのでした。

フォローで登ってくるトコロ会長を、終了点からパチリ。
自分のザックを終了点に降ろした後、ロワーダウンして再び登り返し、私のザックも荷揚げしてくれました。あざっす。
その上は、ひたすらガレガレ歩き。核心も突破したし、あとはここを詰めて行くだけ。
尾白川の源頭部付近。伏流水は、冷たくこれがまた美味しい。ペット3本分確保。

振り向けば「烏帽子岳」の頂。ここまで来れば、目指す稜線も近い。
やがて、長かったガレガレも終わり、シラビソ樹林帯へ。その樹林帯を抜けると・・・

待望の稜線へ!思惑通り、甲斐駒の六合目付近に出ました。

すぐ近くには、六合石室も見っけ。

稜線の向こうには「仙丈ヶ岳」の頂。

甲斐駒山頂経由で黒戸尾根を下るルートでも良かったが、
黒戸尾根の登山口である「竹宇駒ケ岳神社」から尾白川林道のゲートまで登り返すのは嫌だ!・・・ということで、予定通り、日向八丁尾根経由で下山することに。

三ツ頭分岐を過ぎて、烏帽子岳のピークへ。

そして山頂、お決まりの「ハイチーズ」。
山頂からは、遡行した谷筋が良く見えました(赤線のところ)。
 山頂から見ると結構急に見えていやいやなかなかのところを登ったなぁ、と思いました。最後、ガレをトラバースして樹林に入ると踏み跡をたどって尾根に出ました。沢の最後はたいていの場合適当に登りやすそうなところをいくと踏み跡に収れんしていくことが多いものです。

こちらは鋸岳。
 これが、先を見ると結構長くてたまらんなぁ・・・という感じでした。
かつては藪ルートだった日向八丁尾根ですが、這松の枝は払われ、大岩山の絶壁もすっかり整備されて、今や一般道と変わらない状態でした。
 大岩山の急斜面は手入れが行き届いていました。日向八丁尾根が目標ではなく下山路でしたので、本当に助かりました。登る人はそう多くはないだろうな。手入れは一般道並みでしたが、つらさや悪さは一般道というにはチビシイものがあります。やっぱり、甲斐駒!山が深い。
暑さに加えて、水を十分に吸いこんだロープを背負っての下山は、もうヘロヘロでしたが、何とか体力をふりしぼり、烏帽子岳山頂から約5時間かけて、車を停めた尾白川林道に無事戻ることができた。幸いにして天気にも恵まれ、充実した2日間の山行でした。

沢登りは本当に危険極まりないですが、突破した時のあの充実感はやっぱり最高!梅雨も明けていよいよ夏本番!夏はやっぱり沢で遊ぶのが良いですね!

トコロ会長、お疲れさまでした。また行きましょう!
                         by もりっしー

 今回、モリッシーさんには荷物といいリードといい、いろいろお世話になりました。長くて、天気が良くて楽しめました。やっぱり、山は山中での泊りがないとだめですね。帰りの温泉が外れでありました。

(トコロ)